The Defender

Version 4.5.1

Written by Chiaki J. Konaka





○サイバー・スペース


       虚無の空間に突如閃光。
       S「THE DEFENDER」
       都市の如きサーキットの中を信号が駆け抜けていき、
       やがてビデオ基盤を経て――

○薄暗い室内

       ディスプレイに数字の羅列の表が浮かび始める。
       ルーペ・ゴーグルをした男、僅かに笑み。
       バチバチバチッ! 両の人指し指を交互に猛烈に動
       かしてタイピング。
       ガリガリガリ! ディスクドライヴが音を立てて書
       き込み始める。
       ガチン! 脇のステンレス製の筐体のレバーを捻る。
       ブシューッ! 蒸気が上がる。まるでマッド・サイ
       エンティストの秘密実験室。
       心配そうに見つめていた背広姿の中年男、脅える。
       ガリガリ――シューウウウウ。
       MO(光磁気ディスク)がイジェクトされた。それ
       を中年男に放る、ゴーグルの男。
 銀行員「おっと」
       落としそうになって慌てる。
 ゴーグルの男「データは全部救えた。それに全部コピーしといた
     から」
 銀行員「(相好を崩し)あ、ありがとうございました」
       ゴーグルの男、ケーブルに繋いだ剥き出しのハード
       ディスクを――ハンマーで潰す!
       ――――――――――――――――――――――
       中年の男、胸から封筒を出して、デスクに置く。
       ゴーグルの男、中身をチラっと見てポケットにねじ
       込む。
 銀行員「(卑屈に)どうも御世話になっちゃいまして。ではまた
     何かの折り」
       頭を下げて出ていこうとする男に、
 ゴーグルの男「(ドス効いた声)なあ」
       ビクンと立ち止まる男。
 ゴーグルの男「今度こっちにもちっとばかし融資してくんないか」
       ギョッとなって振り向く男。
 ゴーグルの男「そいだけやってりゃ、あと一億や二億、変わんな
     いでしょ?(ニヤ)」
       中年男、憮然として出ていく。
       男、ステンレス製の筐体のレバーを捻り、肉厚のデ
       ミタスカップに黒い液体を注ぐ。
       クックと笑いながらゴーグルを外した。気の良さそ
       うな笑み。エスプレッソ・マシンが絞り出した濃厚
       なそれに砂糖を入れて、芳しい匂いを堪能し、啜り
       つつ、立ち上がる。
       ブラインドが開かれた。機械やCD、MO等のメデ
       ィア、ケーブル類でゴチャゴチャした部屋に光が差
       し込み、怪しげなムードを魔法の様に消失させる。

○秋葉原裏路地

       小さなビルの狭い階段をリズミカルに降りてくる男。
       ゴチャゴチャとごったがえした裏道を歩く。
       メインキャスト・スタッフタイトル始まり。

○中央通り

       大通りに出てくる男。バッタ屋のチラシを配ってい
       た中年に声を掛けられる。(以下早いテンポで)
 チラシ配り「冷蔵庫安いよ」
 男  「いらねーよそんなもん。景気どう?」
 チラシ配り「家電は駄目だね、もう。パソコンは利が薄いしさぁ。
     アキバはもう外人と業者とガキ相手だな、タカちゃん」
 孝  「(聞き厭きてる話)何か面白い話ある?」
 チラシ配り「アラブ系の奴が大挙して石買ってるって」
 孝  「インテルとかの?」
 チラシ配り「(被りを振り)安い互換品。ミサイルの部品だろね。
     また戦争始まんじゃないの?」
 孝  「へー(無関心)。じゃね」
       歩き始める孝。
       店頭で格闘ゲームの対戦をしている小学生。
       なかなか列に加われないでいる男の子がいる。
       その脇を抜けていく孝。

○裏通り

       反対側の裏通りに入ってくる孝。
       店先に並ぶ中古の基盤やジャンク品。
       バイトの店員が挨拶。
 バイト「孝さーん、八雲の24メガヘルツ、入ったよー」
 孝  「いるか今頃そんなもん」

○ラジオ・デパート内

       入ってくる孝。
       アラブ系の外人(いかにもアヤシ気なスーツ姿)が
       ウロウロしているのを、横目で見ながら中へ。
       ――――――――――――――――――――――
       エスカレータを駆け上がってきた孝、狭い通路を泳
       ぐ様に抜けてワイヤー・ケーブルの専門店に向かっ
       ていく。
       と、茶髪の二人連れの若い電気工事人とぶつかる。
 茶髪1「てッ。ンだよ(ガンつけ)」
       孝、唇をすぼめ、頭をちょっとだけ下げてそそくさ
       と逃げる。
 孝  「(呟く)ンだよったー何ンだよ(ぶつぶつ)
     ちーす(店番のオバサンに)。頼んでたの、入った?」
 オバサン「ごめーんタカちゃん。未だ入って来ないんだよ。だっ
     てあのケーブル、一本一本職人が手で巻いて――」
 孝  「(手を上げる)はいはいはい(聞き厭きてる)けどよぉ、
     もう2週間なんだぜ? 遅いよその職人さん」
 オバサン「(ムッ)いんだよ。そこいらの安もんでいいんだった
     らいくらでも――」
 孝  「判ったよぉ、もう」

○ラーメン店内

 孝  「みそ」
       無愛想な主人、玉を湯に放る。
       スポーツ新聞を開く孝。
       と、背後から大手家電店の服を来た若い男が
 店 員「タカさんタカさん」
 孝  「(振り向かず)何」
 店 員「CDのデータが壊れちゃったって客がいたのよ。タカさ
     んとこ紹介したからさ。もうすぐ行くと思うよ」
 孝  「ふーん……」
 店 員「もっと喜んでくれたっていいのになあ」
 孝  「何でよ」
 店 員「だってその客、若い女」
       ガバッと立ち上がる孝。
 孝  「おやっさん、悪い! それ、こいつに食わせて」
       飛び出していこうとし、入口でコケる孝。
 店 員「俺、中華丼頼んじゃってますよー。金はーっ!?」

○孝の仕事場

       じっと佇んでいたのは――、蒼白い顔をした少女。
       がっかりした顔の孝、口にはドーナツをくわえてる。
 少 女「――あの、急に来たら、良くなかったですか?」
 孝  「あ、いや、そんな、ガキ、いや、そうじゃなくって(嘆
     息/小声)あのヤロ(ニコ)で、これ?」
       無レーベルの、金色のCD(DVD−RAM)をつ
       まみ上げる孝。焼け焦げて一部が溶けている。
 少 女「(こくり)どうしても――直して欲しいんです」
 孝  「直すって、買い直した方がいいよ。無理だよこんなんな
     っちまったらさ」
 少 女「――」
       答えない少女の方に目をやる孝。
       少女、『なんでこんなところに居るの?』と脅え顔
       で部屋を見回している。
 孝  「(不審)もしもし?」
 少 女「――えっ!?」
 孝  「これ、データRAMだとすると、復旧は不可能。ね」
 少 女「(小首を傾げている)――あたしには――」
 孝  「けど(盤面に見入る)なんか変な焼き方だなぁ。ハイブ
     リッドかなあ。これ、どこで手に入れたの? 俺のこと
     誰から聞いたワケ?」
       少女、答えず、脅えた目で孝を見つめている。
       孝、嘆息し、傍らのミニコンポにそのCDを入れて
       ――プレイ。
       じっと見つめている少女から、脅えが消える。
       暫し無音――。
       と! 突如ピーガリガリガリピーという信号音が孝
       の耳を直撃。
 孝  「わっ」
       孝、やや大仰に耳を塞ぎ、停止ボタンに手を延ばす。
       表情を消し、じっと孝を見つめている少女。
 孝  「うう……」
       孝、ボタンに指が届いく直前に、音が鳴り止んだ。
 孝  「なんなんだよこれよぉ」
       イジェクトして盤を出し――
       振り向くと――少女の姿が無い!
 孝  「?――へ?」
       狐につままれた顔でいた孝、次第に怒り。
 孝  「ねえ? どこ行った?」
       CD盤をポケットにねじ込み、部屋を飛び出す。

○路地

       駈け降りてきた孝、
 孝  「(ブツブツ)ったくもー……」
       飛び出した孝、路地を見回したら――
 孝  「!」
       身の丈2mはあろうかという屈強な男が、少女を地
       面に踏みつぶして鞄を奪おうとしていた!
 少 女「いやあ!」
 孝  「よっ、よせよっ!! 何してんだよっ!」
       日焼けした坊主頭が、眼光鋭い目で孝を凝視。
 孝  「(ビビる)なっ、なんだよっ」
       ユラリ。ディックヘッドが少女から手を放し、孝に
       向かって近づいてくる。
       脅えて後ずさる孝。
 孝  「来るんじゃねーよっ!」
       バッ! ディックヘッド、軽い所作で孝を威嚇。
       孝、ヨロケながらダッシュ! 少女の手を掴んで引
       っ張り起こそうとするが
 少 女「あっ!」
       孝の手がすり抜ける。少女の手の甲に赤い跡が。
 ディックヘッド「ウガッ!」
       ディックヘッド、孝の衿を掴み放り投げる。
 孝  「うわっ!」
       鉄柱に激突。呻く孝。
 孝  「きしょー……」
       脅えて声も出ない少女。
       ディックヘッド、孝の前に立って怪訝そうな顔。
 孝  「俺はな、頭脳労働者なんだよこのウスラぼけ頭! いき
     なり何てことしやがんだわっっ」
       言ってるそばからディックヘッド、孝の首を掴んで
       引上げ――左の拳が――!!

○ヴィジョン

       ピーガリガリガリピー……。
       極く短いヴィジョン。閃光と追憶――回路――
       光――

○路地

       目を開ける孝。まるで別人の様な、憤怒の形相。
       身体を覆う筋肉が脈動を始める。
 少 女「キャアアアアッ!」
       ディックヘッドが少女を抱き上げている。
       と! 孝が文字通り、跳んで来る!
       ディックヘッドの太い頸に脚を絡めて、倒す!
       ディックヘッド、すかさず体勢を戻して――孝
       目掛けて左右の拳を仕掛けてくる。
       孝、それをかわして後退していく――。

○万世橋

       大通りに出る二人。
       歩道を一杯に使って間合いを詰めていくディックヘ
       ッド。孝――反撃に出る! 身体をめ一杯有効に振
       り回した後ろ回し蹴り!
       よろけるディックヘッド。懐に入り顎を狙う孝!
       逃げまどう通行人。
       もんどりをうつディックヘッド。
       孝、後退して身構える。
       ディックヘッド、憤怒の顔で突っ込んでくる!
       孝、トンボを切って交わす!
       ――――――――――――――――――――――――
       対岸の歩道で、さっきの小学生がボーッと二人の対
       戦を見ている。まるでそれは、モニタの中の出来事
       の様に見える。