原型をオーブンで硬化させた後、シリコンで型取りをして、無発泡ウレタン樹脂を注型、二次原型を抜いた。細かいディテイルや表面処理はこの二次原型で行う。関節可動ボディとのジョイント部の処理もここでやっておく。
 髪は、植毛済みの塩ビ製ヘッドから移植する。
 仕上げまでの工程はそれなりに時間も手間も掛かったが、既に形を得ている今は、苦痛にもならなかった。
 私が、あの西新宿の不思議な店で入手した、赤いチューブの様なパーツの、非常識なまでに膨大な容量を持つメモリ。その中に収められているデータは基本的には人の形のアウトラインであり、どういう肌の質感であるか、どういった衣装を着ているのかというマッピングに相当するデータは入っていなかった。
 しかし、私は、この今生まれようとしている人形がどの様な格好をしているのかについては、何故か確信を抱いていた。
 それは、このヘッドの形状データの中に特異な点があったからである。
 両頬、目のやや下の辺りに、逆三角形のマークが、ほんの極く僅かな厚みで盛り上がっていたのだ。
 人のサイズにしても、一/一〇ミリも無い厚みである。三角形の下を向いた頂点の先には、更に小さな点がポツリと両方についていた。
 まるで涙を流している様な意匠。


Next>