|
ヤスエさんによる解釈です。やはり、この解釈が正しい、間違っているという事については、私は何も申し上げません。(99/11/06)
破滅招来体−見えざる敵が語るもの
1. 最大の疑問
私が、ウルトラマンガイアにハマった一番の理由は、藤宮博也の存
在である。
何故、破滅招来体は、あれほどまでに彼を引きずり込もうとするの
か。
それを知りたいがために、結局、最終回まで見ることになってしま
った。
彼は、我夢よりもウルトラマンらしく、そしてかぎりなく破滅招来
体に近い存在として、登場する。
危険を察知する能力、そしてそれに対処する能力、いずれも我夢よ
り優れている。
そもそも、アルケミースターズのネットワーク・コンピューターで
あるクリシスを設計したくらいだから、彼が天才中の天才として設
定されているのは、間違いない。
しかし、そのクリシスによって「人類を削除しなければ、地球は救
えない」という考えに取りつかれることになった彼を「頭だけよく
ても、人間としては未熟だ」というだけでは、彼の抱えている問題
を明らかにはできない。
それは、まさに他のウルトラマンシリーズが、描き得なかった領域
であり、それを描くことで、今までにはない魅力を引出しているの
だから。
そして、藤宮と破滅招来体の関係を考えあぐねていた私が、最終回
に登場した破滅天使ゾグの姿を見て、「そういうことだったのか、
そうだったのか!」と(石室コマンダーのように)あることに気づ
いたのである。
2.「闇」の正体
それは、破滅招来体や自然環境云々は二次的問題として考え、むし
ろこの物語を自由な空想世界のファンタジーとしてみると、はじめ
て破滅招来体は実体から開放されて、「イメージ」が意味を持って
くるのである。
考えてみると、破滅招来体が現れるのと時同じくして、ウルトラマ
ンは藤宮や我夢の前に姿を現している。
つまり、破滅招来体とウルトラマンとは表裏一体をなすものであり、
それはともに「地球(あるいは宇宙)の意思」でもあるということ
ではなかろうか。
第26話「決着の日」で、藤宮はこう語っている。
「地球は、慈悲深い母などではない。こんな破壊的な力を俺に授け
てくれた。」と。
それは、もともと地球には、母なる力と破壊的な力があるというこ
とともとれる。
そして、これは心理学者C・G・ユングが唱えた「アーキタイプ」
(元型)の中にあるグレートマザーのイメージに合致しているので
ある。
グレート・マザーとは、人間の持つ母性を表す心的イメージである。
母性といっても、女性にだけあるものではなく、父性とのバランス
において、男性にも必要不可欠な存在である。
そして、それはすべてのものを包み込み、育てる力として、人間の
成長に重要なものでもある。
しかし、自我の確立のためには、自分の中のグレート・マザーと対
峙し、自立する時が必ずやって来る。
その時、母性が父性に対してあまりに強大であったりすると、それ
は、慈悲深い母の姿からもう一つの姿に豹変する。
自分から旅立とうとする子供を必死で引きとめようとするあまりに、
子供を殺してしまうような、全てを呑み込み、支配しようとする破
壊的な力に。
これは、破滅天使ゾグが最初は神々しい姿で現れながら、最終的に
はグリフィンのような怪物に変身しているのと酷似している。
また、第47話「XIG壊滅!?」で、死神が「主」の言葉として
藤宮に語る
「人類を滅亡させ、誕生したての希望の星に戻すため、浄化する」
という意味は、強大な母性グレート・マザー(=破滅招来体)から
旅立とうとする自我(=人類)をなんとか元の支配関係に戻そうと
するメタファーともいえる。
そして、この否定的な母性の「イメージ」こそが、破滅招来体であ
り、藤宮の陥った心の「闇」だと考えると、この物語のメインテー
マは、「少年の心の旅」だったのではなかろうか。
3.「自己」を知る旅
私が、メインテーマを「少年の心の旅」だと考える理由には、前述
の心的イメージの他に二人がウルトラマンと出会った状況の違いが
ある。
我夢の出会ったガイアは、すでに光り輝き怪物を退治するというド
ラゴンクエストをしており、それは完全な勇者の姿をしている。
一方、藤宮の出会ったアグルは、雷鳴とどろく廃墟に立っており、
その姿からはそれが真の勇者かどうかは、はっきりしない。
もし、二人が見たものが同じ「地球の意思」だったとして、何故全
く違う姿でそれは現れたのか?
それは、ガイアとアグルが二人の「自己の世界の投影」だったから
ではなかろうか。
そして、二人の心の旅にはそれぞれ違うテーマが、隠されていたの
である。(それについては、省略。)
それゆえ、ガイアとアグルは全く違う姿で出現したと考えると、ウ
ルトラマンと出会った後の二人の行動の違いも、そして、藤宮だけ
があれほどにまで、破滅招来体に魅入られたのかも理解できるので
はなかろうか。
4.「地球」と「心」
ウルトラマンガイアを「地球(宇宙)の持つ二つのイメージの戦い」
を縦軸に、我夢と藤宮の「心の旅」を横軸にして捉えてみると、
┌───────────────────────┐
│ 地球(宇宙)の │
│ (肯定的イメージ) (否定的イメージ)│
│ │
│第一層 我夢(ガイア) 藤宮(アグル) │
│ ↓ │
│第二層 人類 自然(地球怪獣)│
│ ↓ │
│第三層 地球に生きるもの 破滅招来体 │
│ │
└────── 地球(宇宙)の意思 ──────┘
という多層構造の物語なのだということがわかってくる。
これは二元論という簡単な対立構図ではなく、むしろ補完関係と考
えた方が良いだろう。
つまり、層が進むにつれて、その前の層の二項がともに右側の肯定
的イメージに内包されていくようにできているのである。
そのことで、私達の視点が「一人の人間から地球へ」(ちょうど、
最終回のエンディングのように)と広がっていくように出来ている
と考えると、これは非常によく出来たプロットだといえる。
それは、このことで今までのウルトラマンが陥りやすかった「人類
にはカント主義、その他には功利主義。」というダブルスタンダー
ドから解放され、もっと普遍的なテーマを問うことができたからで
ある。
おそらく、ウルトラマンガイアに「神話的」なものを感じるのは、
それが神話によっているというよりも、そもそもこういう普遍的な
テーマの物語には、「神話素」(これもアーキタイプにつながる)
が生じてくるからなのである。
ただ、それが作者の意図したものか、無意識なものかまでは、わか
らないが….
そして、破滅招来体の去った世界は…。
混乱と破壊から「再構築」された世界であり、我夢・藤宮が戦いの
上に勝ち取ったものは、「自我の確立」という内的成長なのだとい
える。
一見、何事もなかったかのように、藤宮は旅立ち、我夢が普通の学
生に戻ったことにがっかりした人もいるかもしれない。
しかし、彼等は破滅招来体が空から降りてくる前と、何も変ってい
ないのだろうか?
それは、この一年あなたが「ウルトラマンガイア」に何を見てきた
かということでもある。
ヤスエ