誰に強いられた訳でもない。
 そもそもは、奇妙な形で手に入れた、仮想的な立体形状の符号データを、実際に形として実存させようという、ちょっとした気まぐれの試みであった筈なのに。
 作業は果てしなく続くのかとまで思われるほど、思い通りの形にならない日々が続いた。
 細部をいじっていると全体の形状が気になり、また最初からやり直すという非効率的な事を幾度も重ねた。モニタには、理想的な形状が描きだされている。それを元に三面図を原寸大で出力してもある。その通りに作れば良いだけの筈だが、どうしても思い描くものになってくれない。
 活きた、人の形になってくれない。
 活き活きとした姿を造り出す為には、私の血をも粘土に練り込むという莫迦げた思いつきまで、私の病みかかった躯が囁いている。
 活きた――?
 私は、人間を造っているのではないのだ。デジタルの符号が描き出す仮想の姿は、決して生きた人のそれではない。
 そうか……。
 私は前提を間違えていたようだ。
 美しい、人の形をしたもの――。それは人間そのものの縮小ではない。
 そう認識した途端、私の指はこれまでにない大胆さで粘土を盛りつけ、スクレイパーで削ぎ落とし、頭部の原型を造り上げていた。

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