「こんにちは。お久しぶりです。お元気でした?」 仕事でのつき合いしか無かったかの様な挨拶だった。 その挨拶の声に、私は無意識に怒りの様な衝動を感じていたのだろう。 彼女を食事に誘い、互いの仕事の事を話し合い、私たちの時間は徐々に昔に戻っていく。 かつてずっと聞いていた声、ずっと見つめていた瞳、形の良い唇。 かつてよくそうした様に、私たちはホテルに部屋をとり、愛し合った。 夜が明ける前にはチェックアウトし、私は彼女をマンションまで送り届け、そして仕事場へ戻った。 もう若くないのだから、この様な夜の過ごし方は疲れる。しかし、久しぶりに会った彼女のぬくもりが、今はとても私を癒してくれている。また以前の様な関係に戻れるだろうか。私はぼんやりと考えながら、仕事場の明かりをつけた。 最初は何が起こったのか判らなかった。 空き巣狙いが入ったのか? この部屋で高価なものなんて、文章を書くにはややオーヴァー・スペックな計算機が何台かとその周辺機器くらいなものだ。 片づけられず、積み上げていた本が雪崩を起こしており、人形のコレクションが立ち並ぶ棚が一掃され、人形達は全て床に落ちていた。 地震があったのかもしれないな。それくらいしか思い浮かばなかった。 溜息をついて、デスクへ向かおうとすると――、キーボード脇の脇に女が奇妙な形で倒れていた。 |
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