女――、過日まで私が一心不乱に作り続けていた、あの人形の事である。
 しかし、私は人形というより以前に、“女”という語を脳裏に浮かべていた。
 自分でも不思議に思いつつ、その人形をじっと見つめていた。
 なぜここにこの人形があるのだ。
 あの棚に、他の人形達――自作ではなく、国産や海外のファッションドールが主だが――の中に並べ、スタンドで立たせていたのだ。
 それが、ここに置かれている。
 見回してみても、機器類には全く手がつけられていない様だった。
 データを収めたメディアは、私にとっては資産だが、第三者には何の価値もない。それらも手をつけられずにいた。
 躯を奇妙な形で曲げ、仰向けに倒れている人形――。
 その顔は逆さになって、机の前に立つ私の顔をじっと見つめている様だった。
 この目は私が描いたものだ。その目が私を見つめている。まるで――、そう、無意識の怒りの炎をその瞳の中で燃やしている。
 私に――怒っているのか――?
 他の女と会っていたからというのか。
 あまりに常軌を逸した発想だが、私にはそれが事実だろうと思えていた。
 それを認めるという事は、この人形に魂があり、留守中の部屋を荒らすだけの物理的な力を有しているという事を意味するが、それより何より、この人形が、女性の姿を模した“もの”ではなく、女性そのものだということになる。

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