「――」
「あたしたちの中で一番――、背が高い。言葉も、強い……。あたしはドリスの言う事に逆らう事なんて出来なかった」
 ドール達のリーダーの様なものか。
 このマリスはあまり可愛がられていなかった。
「ドリスは特別なの。お客様を選ぶ事が出来るのはドリスだけ。それだけの幸せを、ドリスは与えられるのだもの」
「――ヘザーは?」
 マリスの頬が初めて緩んだ。
 思い出しているのだろう。
 抱いていた少女のファッション・ドールの、乱れた髪を手でなでつけている。
「この子よりも、ちょっと小さいわ。とっても可愛い子よ。いつもあたしに憎まれ口を言うけど、でもいつもあたしに話しかけてくれたし――」
 髪を撫でつけていた手が止まった。
 虚ろに笑顔を虚空へ向けている人形、それをマリスは急におぞましいものの様にうち捨てた。
「あ――あたし! どうしてヘザーに――、あんなに可愛いかったヘザーが! 顔! ヘザーの顔が!」
 私は近づき、そっとマリスを両の掌で包む様におさえた。
「ここにはヘザーはいない。だからそんなに哀しむ事はない。ここは違う場所なんだから。そうだろう?」
 私はとにかくマリスに落ち着いて貰いたい、心の平安を取り戻して欲しいとだけ願った。
 その気持ちが通じたのか、マリスは息を鎮め、私の手の中から抜け出し、私の顔の前に歩いてきた。

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