第7話「綺亜羅
監督:金子修介
PDF版シナリオ
4,5年ほど前に、ロフトプラスワンのイベントで、金子修介監督と初めて顔を合わせた。
「ガメラ」のリメイク版は、当初私と弟が脚本を書いていたのだが、それは昭和時代のガメラのイメージに則った、子どもが主人公のジュヴナイルであり、その脚本案自体はキャンセルされてしまったのだが、ガメラとギャオスがアトランティスの生体兵器であった、という設定だけは何故か、伊藤和典氏の脚本、金子修介監督によるリメイク第一作目に引き継がれていたのだった。
そんな因縁もあったので、金子監督とは一度組みたいと思っており、この時にその意志を告げていた。
その事を金子監督が覚えていたからかは判らないのだが、私が提出した数種のプロット案を含め、多くの企画案の中から金子監督が選んだのが、「妖少女記」と仮題をつけていた私のプロットだった。

プロットの意図は、香山滋的な妖精少女物語を実写でやろうというところにあった(かつてアニメーションでは、平野俊貴監督の『吸血姫 美夕』の1エピソード『鱗翅の蠱惑』にて、香山の『妖蝶記』をイメージした物語を既に書いている)。
しかし、他にもっとQらしいアイデアを提出していたので、この案は私の中ではサブ的な存在でしかなかった。そう言えば『ウルトラマンティガ』でも、私の最初にプロットが通り脚本化したのは『怪獣を待つ少女』だった事を思い出す。

金子監督は、特にプロットに対して変更を提案する事はなく、脚本化への作業の苦しみは、私の内部での問題だけだった。
香山的妖精譚を、如何に現代のドラマにし得るか。そしてウルトラQらしくするにはどうしたらいいか。
私が導いた答は、全てシナリオに表している。

ブルーノートというジャズの名門レーベルの1500番台、そしてそこに欠番があるという説明は、事実に沿って描写してある。当初はレーベル名も本物で行けると言われていたのだが、やはりもじった別の名前に変更を余儀なくされた。
私がエレキベース奏者として大学時代を過ごした時の思い出も、若干このエピソードと、主人公像に込めた。

私が参考にと金子監督に聴いて貰ったのは、チャールズ・ミンガスのアルバムだった。
金子監督は、本来の劇伴を殆ど使わず、ジャズナンバーでこのエピソードのモードを決定した。
野村宏伸氏によって演じられた主人公、デビット伊藤氏が演じた、もう一人の主人公(この二人は、同一人物の異なった未来の姿、と言えるのかもしれない)、架空のジャズメン=バスター、そして綺亜羅の中村有沙――。
とりわけ、凡庸なベーシストである私にとっては、野村宏伸氏の運指のリアルな優雅さは、嬉しい驚きで見入った。
キャスティングを含め、金子監督は実に映画的にこのエピソードを撮ってくれたと思っている。

監視カメラ社会の中で、幻想的な物語はどれだけの力を未だ持ち得ているのだろうか。脚本に込めたのはその想いだった。